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「絶対に入れない」から始まった6年間― 西東京の高齢者施設が挑んだ、コロナとの闘い 「聞かせてくださいあなたのコロナ禍~私たちは何を学んだのか?」

2020年1月。日本で感染拡大が本格化する前から、「これはまずい」と動き出していた高齢者施設がありました。

西東京市にある社会福祉法人東京聖新会
理事であり施設長を務める尾林和子さんは、高齢者の命を守るため、いち早く感染委員会を立ち上げ、抗体検査の全員実施、見守りカメラの活用、そして論文化による海外発信まで、数々の取り組みを実行してきました。

6年間の実践の中で見えてきたものとは何だったのか。
その歩みを、振り返っていただきました。

尾林さんのお話はここからお聞き頂けます(約15分45秒

//// お話の記事はこちらから ////

「これはまずい」1月からの初動

尾林和子と申します。社会福祉法人東京聖新会で理事と施設長を兼務しています。
もう20年、23年くらいになりますかね。

COVID-19については、かなり早い段階で「これはまずい」と思いました。
多分、最新の情報が早めに入ってきていたんですね。なので2020年1月の段階で、施設内に専門の感染委員会を立ち上げました。

うちは高齢者施設です。
高齢者へのリスクが高いことは明らかでしたから、とにかく水際で防ぐ。「入れない」「出さない」「持ち込まない」。それを大前提にしました。

まず考えたのは、今できる初期対応は何かということ。

手洗い、うがい、換気、消毒。
この4つをどうやって確実に行うか。

それから、もし入ってきた場合に、どこでどう止めるか。

うちは1階が特別養護老人ホーム、2階がデイケア、3階が介護老人保健施設。
スタッフも部門ごとに違います。エリア別にどんな対応を取るのか、細かく作り込みました。これはかなり時間をかけましたね。

情報が錯綜する中で「正しい知識」を徹底する

客船ダイヤモンド・プリンセス号が横浜に停泊していた頃、真偽不明の情報が飛び交いましたよね。
あれが一番怖かった。誤った情報で動くことほど危険なものはない。

だからまず、ドクターを中心に、現時点で分かっている専門的知識を徹底的に共有しました。

「決められたからやる」ではなくて、
自分の身を守ることが、利用者様を守ることにつながる。

じゃあ、自分は何をすべきなのか。
自分で考えられる体制を作ったことは、大きかったと思います。

全職員・利用者への抗体検査(毎月1回の定期検査)という決断

そして、いち早く抗体検査キットを購入しました。
高価でした。でも必要だと思いました。

全職員、そして利用者様にも、きちんと同意をいただいたうえで実施しました。

2020年6月。
その時点で、2%の方が抗体を持っていたんです。

発症していないのに、すでに抗体を持っていた。
この方々は多分、すぐには感染しないことが予想された。

でも残り98%は無防備。
だからワクチン接種を出来ればして欲しいというところでした。

海外の高齢者差別と、日本の選択

当時、ヨーロッパの方では高齢者が集中治療を受けられない、受診を断られるという事態が起きていました。
いわゆる「エイジズム(高齢者差別)」です。

高齢者がバタバタ亡くなった。

日本は後手後手だと批判もありましたが、
結果として高齢者は守られ、死亡率も低かった。

世界と比べると、日本は本当にうまく乗り切ったのではないかと思います。

その中で、西東京市の小さな法人が抗体検査をやった。
そういう施設があったことも、日本の一部だった。

後から思えば、そういう積み重ねが日本を支えたのかもしれません。

コロナ以前からあった“見守りカメラ”が救った現場

フローラ田無では、各部屋に見守りカメラを設置しています。
これは人手不足対策や事故防止のため、コロナ以前から導入していたものです。

まさかパンデミックで役立つとは思っていませんでした。

隔離は本当に大変です。でも、遠隔で心拍数や呼吸数、姿勢などを確認できる。
完全な映像ではありませんが、状況把握には非常に有効でした。

この取り組みは論文化し、海外にも発信しました。
これは特別な取り組みだったと思います。

※ 論文の詳細は https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/ggi.14222
※ 上記論文の日本語要旨と解題は https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/ggi.14222

スタッフを守るという覚悟

スタッフ対応は、どこよりも手厚くやった自負があります。

検査キットは必要なら家族分まで対応しました。
家族背景も考えながら支援しました。

もちろん、行政の補助金があったからこそできたことです。
特に西東京市は本当に早かった。先手先手で対応してくださった。

市内施設同士でも、キットの融通をし合いました。
助け合いは確実にありました。

コロナが残した“ナレッジ”

衛生管理への即応力は、確実に身につきました。

年に1回は波が来る。
「来たね、はい、いつもの通り」と動ける。

でも、慣れてはいけない。

ウイルスは進化する。
「コロナだからこれ」でなく、「今度のコロナは何だろう」と考える。

自分たちで考える力。
それが一番の財産かもしれません。

転んでも、ただでは起きない

3.11もそうですが、出来事をマイナスだけで捉えない。
何ができるか、何をやれるか。

転んでも、ただでは起きない。

何か使命のようなものがあるのかもしれない。
淘汰されなかった日本に、感謝すべきものがあるのかもしれない。

少し哲学的ですけれど、
諦めない姿勢は大切だと思います。

そして話は、さらに深い思索へと及びました。

「本当に何でしょうね。人口が増えすぎないような神様の力が働くんでしょうかね。淘汰されるべきものは淘汰されるんでしょうね。」

「日本は淘汰されなかったんですよ。それはやっぱり感謝すべきものですよね。」

もし宇宙に何らかの存在があるのだとしたら。
それが自然の力なのか、何なのかは分からない。

「不思議じゃないですか。」

3.11があっても、日本は復興してきた。
それ以前にも多くの困難があった。
そして今回のコロナ禍でも、日本は淘汰されることなく歩み続けている。

「何かあるのかなと思いますよ、使命が。」

2020年の自分へ

最初の1年半、クラスターを出さなかった。
でもその後、発生させてしまった。

悔しかったですね。

でも、経験しなければ分からなかったこともある。

クラスターで亡くなった方がいなかったことに感謝しながら、
「勇気を持って取り組んでね」と、あの頃の自分に声をかけたいです。

ありがとうございます


     ※ 尾林さんが世界に発信した論文の日本語要旨と解題